35条(業務の範囲)
すべての業務の根拠を理由を付して整理

兼業規制は、金商業者が営むことができる他の業務を制限することを通じて、投資者の保護や公正な取引を実現しようとする規制であると考えられます。

ただ、兼業規制が適用されるのは顧客から金銭を預かることが想定されている一種業者と、顧客の金銭を一任契約に基づき運用できる運用業者に限定されています。

金商業者(一種業者と運用業者)の業務は次の4つに分類できます。

1 本来業務

2 付随業務

3 届出業務

4 承認業務

「本来業務」は、金商業のことです。

「付随業務」は、金商業に付随する業務であり、金商法35条1項に規定されています。もっとも、同項に掲げられている業務は「例示列挙」であり、付随業務は同項に掲げられている業務に限りません。

「届出業務」は、金融庁(財務局管轄の場合は財務局)に届出を行うことで営むことができる業務です。

本来、この届出は事後届けであり、業務を開始した後に届出を行うのが筋ですが、事業を開始するかなり前から金融庁に相談するのが実務的な対応になっています。

金商法及び金商業等府令に届出業務として列挙されている業務は、「限定列挙」です。本来、監督当局の監督を受けずにいつでも開始できる建前であるため、範囲を限定したものと考えられます。

「承認業務」は、金融庁の事前の承認を必要とする業務であり、金商法に列挙されていないため、幅広い業務が承認業務の対象になります。

金商業者は、自社が行うあるいは行おうとしている業務が、以上の4つの業務のいずれの業務に該当するかを検討することが大切です。

例えば、ファンドの運用を行う運用業者が、ヴィークルのためにレンダーと交渉する行為はいずれに該当するでしょうか。

有価証券又はデリバティブ取引に関する運用に係る行為ではないため、本来業務ではありません。

金商法35条1項12号に掲げる「他の事業者の経営に関する相談に応じること」とも違いますし、運用業務に付随するもの、つまり、運用業務の延長で行う行為でもないため、付随業務でもありません。

金銭貸借の媒介をしているわけでもないことから届出業務でもありません。

結局、ヴィークルのレンダーと交渉する行為は、ヴィークルの資産のキャッシュポジションの調整を行う行為であることから、キャッシュマネジメント業務という承認業務であるという整理ができます。

もっとも、実務的には、付随業務か届出業務として整理してしまっている金商業者が多いと思いますが、整理の過程によっては承認業務と考えるのが妥当であるということがあるという事例です。

このように、整理の仕方によっては異なる結論になるため、自社の行っている業務が4つの業務のいずれの業務に分類したのかを理由を付して整理してまとめておくことはコンプライアンス担当者のとても大切な仕事の一つです。