金融サービス仲介業
概要
日本の金融関連法の中で、業態を超えた横断的な法律は「金融商品販売法」であり、他は、銀行法、保険業法、金商法、貸金業法と業態別に法律が分かれています。
業態を超えた横断的な金融サービス法の制定は、金商法の起案段階から検討されていて、金商法は横断的な法律ができるまでの過渡期の法律と考えられていました。
2020年に、ようやく、業態を超えた横断的な法律として、金融商品販売法が改正される形で「金融サービス提供法」が成立しました。
「金融サービス提供法」は、利用者(顧客)に対し、銀行業務、保険業務、金商業務、貸金業務に係るサービスをワンストップで提供できる業態として、新たに「金融サービス仲介業者」を定め、金融サービス仲介業者の登録手続や行為規制を定めています。
また、従来、銀行も金商業者も、有人店舗で業務を行うことが原則でしたが、デジタル化の推進に合わせ、金融サービス仲介業者はスマートフォンアプリなどを通じて利用者に金融サービスを提供することが想定されています。
銀行にも生損保にも金商業者にも、従来から代理店や仲介業者の制度はありましたが、代理店や仲介業者は特定の銀行や生損保や金商業者に所属する存在でした。
これに対し、金融サービス仲介業者はどこに所属することなく、預金や銀行融資、保険商品、株券の売買、貸金業貸付けなどの金融サービスを提供することができます。
金融サービス仲介業者は、顧客の資産管理を行い、節税商品の提供や資産のポートフォリオのアドバイスを行っている個人の税理士やファイナンシャルプランナーもなることができます。
ただ、コンプライアンス体制の整備が求められることを考えると、個人で参入するのはハードルが高いと思います。
金融サービス仲介業者には、従来、金融サービスの提供とは無縁だったIT関連企業の参入も期待されます。
ただ、保険商品や株券の売買に関するサービスを提供するためには一定の試験に合格している者の配置が必要であること、貸付のサービスを提供するためには一定の経験者の配置が必要であること、いずれのサービスを提供するためにもコンプライアンス体制の整備が必要であることから、IT関連企業だけで参入するのはハードルが高いと思います。
現実問題として、従来から金融サービスを提供してきた業態とIT関連企業の融合体が、金融サービス仲介業者として理想的だと考えます。
まずは、ここで、金融サービス仲介業の大枠と金融サービス仲介業者として登録するための要件の大枠を理解していただき、参入するための方法や組織形態を検討する際の参考にしていただければと思います。
金融サービス仲介業の種類
「金融サービス仲介業」には、銀行との「預金等媒介業務」、生保・損保との「保険媒介業務」、証券会社や投資運用業者との「有価証券等仲介業務」、貸金業者との「貸金業貸付媒介業務」の4つの業務があります。
もう少し詳しく書くと次の業務が「金融サービス仲介業」です。
預金等媒介業務
・預金契約の締結の媒介
・融資契約の締結の媒介
・為替取引契約の締結の媒介
保険媒介業務
・保険契約の締結の媒介
有価証券等仲介業務
・有価証券の売買の媒介
・上場有価証券の売買の委託の媒介
・有価証券の募集等の取扱い
・投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介
上場有価証券の売買の委託の媒介とは顧客が証券会社に発注する上場株券などの売買注文を媒介する行為です。
有価証券の募集の取扱いとは証券会社が行う新株の募集を取り扱うことです。
投資顧問契約又は投資一任契約の締結の媒介とは顧客と投資運用業者との間の契約を媒介する行為です。
貸金業貸付媒介業務
・貸付契約の締結の媒介
登録申請手続
金融サービス仲介業を提供できる「金融サービス仲介業者」は登録制です。登録申請書と添付書類を提出して登録を受けます。
登録申請書記載事項
登録申請書に記載する事項は次の通りです。
・商号、名称又は氏名及び住所
・法人の場合は、役員の氏名又は名称
・営業所又は事務所の名称及び所在地
・業務の種別(預金等媒介業務、保険媒介業務、有価証券等仲介業務、貸金業貸付媒介業務の種別)
・貸付媒介業務を行う場合は広告又は勧誘の際に表示又は説明する営業所又は事務所の電話番号、サイトのURL、メールアドレス
・電子金融サービス仲介業務を行う場合はその旨
・他に行う事業の種類
・登録申請者が個人の場合は、他の法人の常務に従事しているときは他の法人の商号又は名称、主たる営業所又は事務所の所在地、事業の種類
・登録申請者が法人の場合は、役員が他の法人の常務に従事しているときは役員の氏名、他の法人の商号又は名称、主たる営業所又は事務所の所在地、事業の種類
・加入する認定金融サービス仲介業協会(業界自主規制団体のこと)
添付書類
登録申請書には以下の書類を添付します。
・誓約書
・法人の場合は定款、登記事項証明書
・業務内容方法書(業務の内容と方法及び登録申請書が法人の場合は業務分掌の方法を定めた社内規則)
・業務の種別ごとの誓約書
・法人の場合は、役員の履歴書、住民票抄本、破産者でないことの官公署の証明書
・登録申請者が金融サービス仲介業務を適確に遂行するに足りる能力を有することを明らかにする書面
・兼業業務の内容を記載した書面
・社内規則
・指定紛争解決機関の名称又は商号
・貸金業貸付媒介業務を行う場合には重要な使用人に関する書面
・電子金融サービス仲介業務を行う場合には電子金融サービス仲介業務の内容及び当該業務を遂行する体制を記載した書類
電子金融サービス仲介業務
金融サービス仲介業者は、店頭(対面)の営業もできますが、「電子金融サービス仲介業務」を行うこともできます。
「電子金融サービス仲介業務」とは、金融サービス仲介業者が開発したスマホアプリなどを利用して利用者(顧客)が銀行や生保・損保や証券会社や投資運用業者や貸金業者に、預金契約や保険契約や有価証券の売買等や貸付契約の申込みをすることを可能にする業務です。
電子金融サービス仲介業務を行う金融サービス仲介業者は、次の要件に該当しなければ、別途届出を行うことにより「電子決済等代行業」を行うことができます。
・純資産額がマイナスであること
・日本における代表者を定めていない外国法人
・日本における代理人を定めていない外国に住所を有する個人
・預金者の委託を受けて、インターネットにより、預金口座の資金を移動させる取引を行う指図を銀行に伝えること
・預金者の委託を受けて、インターネットにより、銀行から取得した預金口座の情報を預金者に提供すること
なお、電子決済等代行業を行う金融サービス仲介業者は「みなし電子決済等代行業者」として銀行法その他の規定等の適用を受けます。
保証金
金融サービス仲介業者は、保証金を供託する必要があります。保証金の金額は当初1000万円です。
登録実務の留意点
実際の登録の手続は次の通りです。
登録申請書の提出先
主たる営業所又は事務所を管轄する財務局長(外国法人は関東財務局長)
業務内容方法書
添付書類の「業務内容方法書」には次の事項も記載します。
・業務区域
・業務の形態(対面やインターネット利用など)
・営業所の形態(有人・無人の店舗形態)
・金融サービス仲介業の実施体制
人的構成要件
登録申請者は業務の種別に応じて次の人材を配置する必要があります。
預金等媒介業務
法令等の遵守の確保を統括管理する業務に係る統括責任者(法務コンプライアンス統括責任者)を配置します。
法務コンプライアンス統括責任者は、預金等媒介業務の業務の実務に関する知識に加え、金融サービス提供法、銀行法、個人情報保護法、犯罪収益移転防止法、外為法等の法令に関する知識や、民法、商法、会社法、刑法等の基本法について預金等媒介業務の業務に関連する部分のみならず広くコンプライアンスにかかわる事項についての専門的な知識を有していることが求められます。
保険媒介業務
登録申請者が法人の場合は、保険媒介業務に従事する全ての役員及び使用人が、取り扱う保険種類に応じて、保険媒介業務に関する法令、保険契約に関する知識及び保険媒介業務の業務遂行能力等に関する試験に合格している者などであることが求められます。
有価証券等仲介業務
金融サービス仲介業務を行う役員、内部管理の責任者などが、業務に関する外務員資格試験に合格した者であり、法令、諸規則等につき一定以上の知識を有する者であること、業務の適確な遂行に必要な人員が配置され、内部管理の責任者が適正に配置される組織体制、人員構成となっていることが求められます。
貸金業貸付媒介業務
常務に従事する役員のうちに貸付けの業務に3年以上従事した経験を有する者又はこれと同等以上の能力を有すると認められる者がいること、貸金業貸付媒介業務を営む営業所ごとに貸付けの業務に1年 以上従事した者又はこれと同等以上の能力を有すると認められる者が常勤の役員又は使用人として1人以上在籍していることが求められます。
・「常勤」は、営業時間内に営業所等に常時駐在することまでは求められません。所属する金融サービス仲介業者の営業の実態や社会通念に照らして相応の勤務実態がある状態が「常勤」です。
内部監査担当者
金融サービス仲介業者は、原則として内部監査担当者を設置することが求められます。
ただし、金融サービス仲介業者の規模等から次の要件で内部監査の代わりに外部監査を利用することが認められます。
・外部監査人に対して、監査目的を明確に指示し、監査結果を業務改善に活用するための態勢を整備していること
・自社の社内規則等を参考に自己検証項目を設定して月1回以上の自己検証を実施し、実施した自己検証の記録を3年以上保存すること
認定金融サービス仲介業協会
金融サービス仲介業者は、原則として「認定金融サービス仲介業協会」(業界自主規制団体)に加入します。ただし、以下の要件を満たせば、認定金融サービス仲介業協会に加入しないことも法律的には可能です。
・認定金融サービス仲介業協会の定款その他の規則(以下「協会規則」という。)に準ずる内容の社内規則を適切に整備していること
・社内規則の適正な遵守を確保するための態勢整備(役職員への周知、従業員に対する研修等やその遵守状況の検証など)が図られていること
・協会規則に改正等があった場合には、それに応じて直ちに社内規則の見直しを行うこととしていること
業務の適切性の確保
金融サービス仲介業者は、業務の適切性を確保することが求められます。具体的には以下の通りです。
コンプライアンス態勢の整備
・コンプライアンス基本方針、コンプライアンス・プログラム、コンプライアンス・マニュアルを策定し役職員に周知徹底すること
・コンプライアンス・プログラムやコンプライアンス・マニュアルは、定期的に、評価されアップデートされていること
・コンプライアンス関連の情報が営業部門、コンプライアンス部門、経営陣の間で、的確に連絡・報告される体制となっていること
・コンプライアンスに関する研修・教育体制が確立・充実されていること
・内部管理部門の独立性を確保し、営業部門に対する牽制機能を十分発揮するための権限を付与すること
事務リスク管理態勢の整備
・全ての業務に事務リスクが存在することを理解して適切な事務リスク管理態勢を整備すること
・事務リスクを軽減することの重要性を認識して事務リスク軽減のための具体的な方策を講じること
・事務リスクの管理部門は、営業部門から独立するなど十分に牽制機能を発揮できる体制を整備すること
・内部監査部門は、事務リスク管理態勢を監査するため内部監査を適切に実施すること
システムリスク管理態勢の整備
・経営陣は、システムリスクの重要性を十分に認識した上で、システムに関する十分な知識・経験を有し業務を適切に遂行できる者をシステムを統括管理する役員として定めること
・セキュリティポリシー(組織の情報資産を適切に保護するための基本方針)や外部委託先に関する方針を含むシステムリスク管理の基本方針を定めて管理態勢を構築すること
・システムリスク管理担当部署はタイムリーにリスクを特定・分析・評価すること
・情報資産を適切に管理するために方針を策定し、組織体制を整備し、社内規程を策定し、内部管理態勢の整備を図り、定期的に見直しを行うこと
・サイバーセキュリティに対して、①サイバー攻撃に対する監視体制、②サイバー攻撃を受けた際の報告及び広報体制、③組織内 CSIRT(Computer Security Incident Response Team)などの緊急時対応と早期警戒のための体制、④情報共有機関を通じた情報収集・共有体制を整備すること
・システム部門から独立した内部監査部門において、定期的なシステム監査を実施すること
・コンティンジェンシープランを策定して緊急時体制を構築すること
・電子金融サービス仲介業務を行う金融サービス仲介業者は、電子金融サービス仲介業務の遂行のためのシステムについて、可能な限り単一障害点(Single Point of Failure(SPOF))を排除してシステム障害等が発生した場合に、速やかに業務を継続できる態勢を整備すること
危機管理態勢の整備
・危機管理マニュアルを策定すること
・風評リスクへの対応のための態勢を整備していること
準用される法律
金融サービス仲介業者には業務の種別に応じて、次のような法律が準用されます。
預金等媒介業務
・銀行法52条の44(顧客に対する説明等)
・銀行法52条の45(銀行代理業に係る禁止行為)
保険媒介業務
・保険業法294条(情報の提供)
・保険業法294条の2(顧客の意向の把握等)
・保険業法295条(自己契約の禁止)
・保険業法300条(保険契約の締結等に関する禁止行為)
有価証券等仲介業務
・金融商品取引法66条の14(金融商品仲介業者の禁止行為)
貸付媒介業務
・貸金業法14条(貸付条件等の掲示)
・貸金業法15条(貸付条件の広告等)
・貸金業法16条(誇大広告の禁止)
・貸金業法17条(契約締結時の書面の交付)
・貸金業法18条(受取証書の交付)