44条(二以上の種別の業務を行う場合の禁止行為)
金商業者と親子法人等による利益相反行為

金商法44条1号は、助言業務の助言を受けた顧客が行う有価証券の売買等に関する情報や運用業務の運用として行う有価証券の売買等に関する情報を利用して、有価証券の売買等の委託等を勧誘する行為を禁止しています。

例えば、二種と助言の登録を受けている金商業者がSPCや投資法人に対して、保有する不動産信託受益権の売却の助言をしたとき、SPCや投資法人が不動産信託受益権の売却を検討しているという情報を利用して、二種業務の顧客に当該不動産信託受益権の買付けの申込みの勧誘をする行為が禁止されます。

また、二種と運用の登録を受けている金商業者が、SPCや投資法人が保有する不動産信託受益権を売却しようとするとき、不動産信託受益権の売却の情報を利用して、二種業務の顧客に当該不動産信託受益権の買付けの申込みの勧誘をする行為が禁止されます。

禁止される理由は、①金商業者が、助言業務の顧客が行う取引情報や運用業務の取引情報を利用して二種業務の勧誘を有利に進めることができること、②勧誘の相手方である顧客が他の投資家に比べて有利な立場に立つことができることが一般に挙げられます。

以前メルマガに書いた通り、金商法は金商業者間の競争や投資家間の競争を促す法律なので、①は金商業者の公正な競争を阻害するから、②は投資家の公正な競争を阻害するから禁止される理由となっています。

では、次の事例における二種業者の行為は禁止されるでしょうか。

(事例)
二種業者の親会社である運用業者が、投資一任契約を締結しているSPCや資産運用委託契約を締結している投資法人が保有する不動産信託受益権を売却しようとするとき、親会社から売買の媒介の委託を受けた二種業者が、不動産信託受益権の売却の情報を利用して、顧客に不動産信託受益権の買付けの勧誘をする行為

当然のことですが、この行為は「二以上の種別の業務を行う場合の禁止行為」を定める金商法44条では禁止されません。

ただし、二種業者と運用業者が親子関係にある事情と、金商法44条1号に定める行為が禁止されている理由に鑑み、二種業者の行為は「金融商品取引業に関し、不正又は著しく不当な行為をした場合において、その情状が特に重いとき」(金商法52条1項10号)に該当するとして、二種業者が行政処分の対象になる可能性はあります。(理由①による)

また、二種業者が行政処分の対象となった場合、親会社の運用業者は「投資助言・代理業又は投資運用業の運営に関し、投資者の利益を害する事実があるとき」(金商法52条1項9号)に該当するとして行政処分の対象になる可能性もあります。(理由②による)

さらに、「親法人等又は子法人等が関与する行為の制限」を定める金商法44条の3・1項1号が禁止する「通常の取引の条件と異なる条件であって取引の公正を害するおそれのある条件で、金商業者が親子法人等と有価証券の売買等を行うこと」に該当するとして行政処分の対象となる可能性は十分に考えられます。

この規定は、主に親会社が子会社である金商業者を不当な手段で経済的に支援することを禁止する規定です。(③)

もっとも、親会社の運用業者は運用資産の売買の媒介を委託する二種業者に関して選定基準と選定方法を社内規則等で定めているはずですから(理由①②及び③を解決しているから)、二種業者や親会社の運用業者が行政処分の対象となる場合は、実務的には

1 親会社の運用業者が恣意的に子会社の二種業者を選定した結果、二種業者が運用資産の売買の情報を知って当該情報を利用した場合

2 子会社の二種業者が親会社の運用業者から不当な手段で運用資産の売買の情報を取得して当該情報を利用した場合

に限られると考えます。