41条(顧客に対する義務)
忠実義務違反となる助言業務

助言業者は、特別に条文をもって忠実義務と善管注意義務が規定されています。

忠実義務は、助言業者は顧客の利益を最優先させて助言業務を行わなければならないという意味です。

善管注意義務は、助言業者は助言業務を遂行するにあたっては、通常求められる注意ではなく、職業人(プロ)としてのレベルの注意が求められるという意味です。

忠実義務も善管注意義務も一読すると当たり前のようですが、慎重に検討しなければならない事案もあります。

(事案1)

株式売買の助言を行う助言業者Xが、S社が発行する上場株券(S銘柄)の売買に関し、顧客Aには売付けの助言を行い、同日、顧客Bには買付けの助言を行った。

Xが、S銘柄の株価が上昇すると考えていたのなら、顧客Aに行った助言は忠実義務違反となり、S銘柄の株価が下落すると考えていたのなら、顧客Bに行った助言は忠実義務違反となるか。

顧客Aは、S銘柄を売却して現金化するニーズがあり、短期売買を想定していたにもかかわらずS銘柄を買い付けてから6か月が経過していて、10%以上の利益が生じていたという場合、XがS銘柄の株価は上昇すると考えていたとしても、顧客Aに売付の助言を行ったのは妥当であったと判断され得ると考えます。

言い方を変えれば、顧客Aに対する売付けの助言は、適合性の原則から妥当であるならば、忠実義務違反に問われることはないと考えます。

(事案2)

不動産ファンドに対して助言を行う助言業者Yが、AファンドとBファンドとの間で同一の内容の投資顧問契約(アセットマネジメント契約)を締結したが、Aファンドとの契約で定めた報酬(アセットマネジメント・フィー)の方が、Bファンドとの契約で定めた報酬(アセットマネジメント・フィー)よりも高かった。

この場合、YはAファンドに対し、忠実義務違反となるか。

契約の内容が同一であることから、Yが提供する助言業務の内容に差がないとすると、Aファンドに対する報酬とBファンドに対する報酬を比較し、Bファンドに対する報酬が割安ならばYの行為はBファンドに対する「特別の利益の提供」であるかどうかを判断する必要があります。

2009年7月31日金融庁パブリックコメント回答394頁80によれば、報酬の差に合理的な理由がなければ特別の利益の提供に該当すると考えられます。

一方、同回答が示唆するように、特別の利益の提供に該当しなくても、Yの忠実義務違反の可能性は残ります。

Aファンドに対する報酬が割高ならばYの行為はAファンドに対する忠実義務違反になり得るからです。

以上のような疑念を残さないために、不動産ファンドに対して助言を行う助言業者の場合、報酬に関する正当性の根拠を記録しておくのが妥当な実務だと考えます。