実務的に重要な点に関するFAQ

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金融庁は、平成29年3月30日に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表しました。この公表の結果、金融商品取引業者は、実務的に、何をすることになったかというと、「顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針」である「取組方針」を策定し、金融庁に報告することになりました。顧客本位の業務運営に関する原則の背景、考え方、パブリックコメントなどについては、金融庁のサイトを参照してください。

金融庁公表資料

このサイトでは、金融商品取引業者にとって、実務的に重要な点について、実質的な観点からお話しします。

Q1:顧客本位の業務運営に関する原則とは何ですか

A1:「顧客本位の業務運営に関する原則」とは、金融事業者が採択することが期待される7つの原則です。

Q2:顧客本位の業務運営に関する原則は誰が従うべき原則なのですか

A2:「顧客本位の業務運営に関する原則」は、すべての「金融事業者」が従うことが期待される原則です。金融事業者の定義はなく、金融商品取引業者、特例業務届出者、銀行、信託銀行、信用金庫、生保、損保、保険代理店が含まれます。規模の大小は関係ありませんので、例えば、一人事業主の保険代理店も、顧客本位の業務運営に関する原則に従わなければなりません(パブリックコメント25)。金融商品取引業者も、規模の大小にかかわらず、すべて金融事業者に含まれますから、顧客本位の業務運営に関する原則に従うことになります。

Q3:当社も何かしなければならいのでしょうか

A3:「顧客本位の業務運営に関する原則」は、7つの原則から成り立ち、金融商品取引業者は、7つの原則に従った業務運営を行わなければなりません。目下の対応として金融商品取引業者に求められることは、「取組方針」を策定し、ウェブサイトで公表することです。

Q4:取組方針とは何ですか

A4:「取組方針」とは、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針であると金融庁は説明しています。一つ一つの原則に対する方針を集めたものが取組方針です。具体的な内容は、金融商品取引業者が、創意工夫を発揮して決めるものとされています。

Q5:取組方針のひな形はどこにあるのですか

A5:取組方針のひな形は存在しません。金融庁がひな形の存在を否定していますので(パブリックコメント41)、日証協、二種業協会、投資顧問業協会などの自主規制団体からも「取組方針のひな形」は公表されないと思います。

Q6:取組方針の内容は何でも良いのですか

A6:取組方針は、第三者的な主体により評価が行われます。取組方針を策定しても、内容によっては、評価機関に否定される可能性があるということです。ですから、取組方針の内容は、何でも良いわけではありません(パブリックコメント38)。また、「当社は、法令等を遵守し・・・」という内容は認められません。法令は、金融庁のいう「ミニマム・スタンダード」(最低限守らなければならない規則)であって、「原則」は、ミニマム・スタンダードを超えた別のところに位置するものだからです。

Q7:ウェブサイト以外の公表は認められないのですか

A7:取組方針の公表の方法は金融庁から示されていませんが、取組方針をアップロードしたウェブサイトのURLを金融庁に報告することになっていますから、公表の方法は、実質的にウェブサイトに限定されます。自社のウェブサイトを持たない金融商品取引業者は、ウェブサイトの構築・手当が必要です。なお、取組方針は、現在の顧客のみならず潜在的な顧客にも公表しなければなりません。(パブリックコメント46)

Q8:取組方針の策定・公表期限はいつですか

A8:取組方針の策定・公表の最初の期限は、実質的に今年6月です。取組方針を策定して、ウェブサイトで公表した金融商品取引業者は、金融庁に報告します。報告を受けた金融庁は、金融庁のウェブサイトに、報告をした金融商品取引業者の名称を公表します。この最初の公表日が今年の6月末であることから、金融商品取引業者による取組方針の策定・公表の最初の期限は、実質的に今年6月になります。

Q9:取組方針の金融庁への届出は必要ですか

A9:取組方針の金融庁への「届出」は不要ですが、金融商品取引業者は、所定のフォーマットを利用して、取組方針を掲載したウェブサイトのURLを金融庁に「報告」します。

Q10:取組方針を策定・公表しなかった場合の罰則は何ですか

A10:取組方針を策定・公表しなかった場合でも、罰則はありません。ただし、金融庁は、今年6月末以降四半期ごとに、取組方針をウェブサイトにアップロードした金融商品取引業者の名称を金融庁のウェブサイトで公表します。わかりやすく言うと、取組方針を策定・公表しなかった金融商品取引業者は、金融庁が公表する「取組方針」を公表している、いわば優良業者リストから外れます。(パブリックコメント24)

Q11:当社は、本当に、取組方針を策定・公表しなければなりませんか

A11:顧客本位の業務運営に関する原則は、あくまで原則です。法令ではありません。ですから、従わないという選択肢もあります。顧客本位の業務運営に関する原則に従わなければ、当然、取組方針の策定も必要ありません。また、原則に従ったとしても、公表する時期は任意です。一方、金融庁は取組方針を公表した金融商品取引業者リストを金融庁のウェブサイトで公表します。今後、このリストに掲載されていない金融商品取引業者は、競争上不利に立たされることが予想されることから、実務的に、金融商品取引業者は、取組方針を策定し、公表しなければなりません。

なお、原理原則としては、金融商品取引業者は、顧客本位の業務運営に関する原則が公表された平成29年3月30日に顧客本位の業務運営に関する原則を採用し、3月30日から、取組方針に取り組んでいることが前提であることに注意が必要です。

取組方針の具体的な策定スケジュール

顧客本位の業務運営に関する原則については、金融庁からパブリックコメントの集計結果が公表されています。全52頁、185項目あります。多くの金融商品取引業者にとって、第一四半期で忙しいところ、これを読み込み、取組方針に対応するのは大変だと想像します。ここに、一つのスケジュール例を公開しますので、このスケジュール例を参考にして、2回目の期限である今年9月までに取組方針を策定・公表してみてはいかがかと思います。

5月中旬~6月中旬

社内に「取組方針対応プロジェクト」を立ち上げて、担当役員の他、営業部門やコンプライアンス部門から人を選出して、このプロジェクトに関する各部門の責任者を決めます。営業部門の参加は、必須です。金融庁は、金融商品取引業者が「取組方針」の良し悪しで、営業上の競争をすることを期待しているからです。注意して欲しいのは、顧客本位の業務運営に関する原則は「全社的」な取り組みなので、「経営者の協力が絶対に必要」だという点です。ですから、プロジェクトチームに担当役員を参加させることはもちろん、プロジェクトチームを立ち上げる前に、経営者に対する説明が必須です。

6月中旬~6月下旬

プロジェクトチームのメンバーは、「顧客本位の業務運営に関する原則」の読み込みと、パブリックコメントの読み込みをします。6月中旬には、メンバーが一堂に会し、取組方針に関する意見交換を実施します。意見を集約したり、取組方針のドラフトをしたりする事務局は、コンプライアンス部門が妥当だと思います。

6月下旬~7月下旬

ここから、事務局は大変です。事務局は、プロジェクトチームのメンバーの意見を踏まえ、取組方針のドラフトを作成します。

7月下旬~8月上旬

事務局は、取組方針のドラフトをプロジェクトチームのメンバーに諮り、意見を集約し、8月下旬までに、最終ドラフトを作成します。

8月上旬~8月中旬

最終ドラフトができたところで、9月上旬までには、経営者に対し、取組方針のドラフトの説明を行い、取組方針の内容を確定させて良いか、公表しても良いか、金融庁に報告しても良いかの3点について、承認を得ます。承認を取締役会で行う場合には、取締役会の招集が必要です。

8月中旬~8月下旬

経営者の承認が取れたら、完成した取組方針をウェブサイトに掲載し、金融庁に報告します。金融庁は、取組方針をウェブサイトで公表した金融商品取引業者リストを今年9月末に公表しますから、実務的に、金融庁への報告は、今年8月下旬までに終わらせます。

取組状況の進捗と公表

顧客本位の業務運営に関する原則を採用した金融商品取引業者は、「取組方針」にばかり注意を向けているのではなく、取組方針に実際に取り組む「取組状況」の進捗と公表にも注力しなければなりません。

「取組方針」は、方針ですので、必ずしも具体性を求められるものではありませんが、「取組状況」は、誰が、何を、いつ、どのように実施して、だから、取組方針の何をどこまで達成したのかという具体的な進捗状況であることが求められます。「取組方針」の策定・公表よりも、「取組状況」の進捗や公表の方が遥かに重要です。

「取組方針対応プロジェクト」のプロジェクトチームは、取組方針を策定したら、「取組状況対応プロジェクト」のプロジェクトチームに改編し、取組方針に基づき、次のことを決めて実行しなければなりません。

  • 取組方針を具体化する方策の決定(取組方針の各項目の具体化・実現化方策)
  • 各方策の責任者の決定
  • 各方策の具体的な取組み方の決定(誰か、何を、いつまでに)
  • 各方策の責任者による取組状況の報告会日時の設定(例:四半期に1回)
  • 全社的な取組状況のまとめと公表(例:四半期に1回)

パブリックコメント

顧客本位の業務運営に関する原則に関してはパブリックコメントが公表されています。

数が多いので、実務的に重要と考えられるパブリックコメントを厳選して抜粋します。内容の正確性や網羅性などは保証いたしません。

原則1

金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。

抜粋

  1. 公表等頻度:取組方針の見直しは、取組状況の定期的な公表を行うタイミング。取組状況の定期的な公表の頻度は、年1回以上。
  2. 顧客の範囲:取引の直接の相手方だけでなく、インベストメント・チェーンにおける最終受益者としての顧客や、潜在的な顧客を念頭に置くべき
  3. 社内規則:現行の社内規則が取組方針に見合っているか確認
  4. モニタリング:当局としても、取組方針、取組状況について適切にモニタリングを行う
原則2

金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。

抜粋
なし

原則3

金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性がある場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針をあらかじめ策定すべきである。

抜粋

  1. 既存の利益相反管理方針との関係:本原則の内容と齟齬がないか、本原則の内容をカバーできているか等について検討が適当
  2. (注)の同一グループの範囲:金融事業者が自ら必要と考える範囲
  3. (注)の委託手数料:委託手数料が高い商品と低い商品があれば、高い商品に関し利益相反の可能性が高い
原則4

金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

抜粋

  1. 手数料の範:各金融事業者の判断に委ねている
  2. 手数料の情報提供の方法:定量的に示すのが困難な場合、定性的な情報を提供することもあり得るが、顧客が理解できるよう情報提供することが求められる
  3. 「名目を問わず」の範囲:組成業者が販社に支払う手数料、有価証券の価格自体、ヘッジ・コストも、「名目を問わず」の観点から、顧客に提供すべき情報であるかどうかを整理すべき
原則5

金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきである。

抜粋

  1. (注)の理由:金融商品・サービスを選定した理由が顧客のニーズ・意向を踏まえたものであった場合に、単にその旨を情報提供するのではなく、そう判断した理由も提供すべき
  2. 重要な情報の範囲:金融商品の基本的な仕組みや特性については、当然に重要な情報に含まれる
  3. (注)のパッケージの意味:ファンド・オブ・ファンズも該当する
  4. (注)の比較の意味:自社商品であるか否かに関わらず、顧客が内容を比較することが容易となるように配慮すべき
  5. 顧客がプロの場合の対応:顧客がプロであることをもって原則が適用されないわけではなく、各原則を実施しない場合は、その理由や代替策をわかりやすい表現で盛り込むことが求められる
原則6

金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

抜粋
なし

原則7

金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。

抜粋

  1. 原則7について:原則7は、原則2~6の取組みを推進するための枠組みやガバナンス体制を整備するためのもの
原則以外

抜粋

  1. 検査・監督と原則の関係:原則の受入れ状況、策定した取組方針、当該方針にかかる取組状況について、適切にモニタリングを行う

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